2012年6月28日木曜日

データジャーナリズムアワードでみる世界のデータジャーナリズム最新動向

先月末(5月31日)、秀逸なデータジャーナリズム・プロジェクト(データを駆使した調査報道)に贈られる「データジャーナリズムアワード」の受賞プロジェクトが決定しました。データジャーナリズム版ピューリッツアー賞(言い過ぎ?)的な位置付けであるにも関わらず、国内ではあまりフォローされていないようですので、以下、少しまとめておきます。

今回が初開催となるデータジャーナリズムアワードは、この分野に力を注ぐGoogleが公式スポンサーとなり、CNNやBBC、ル・モンドなど世界各地の報道機関に所属する上級編集者らで構成される世界的な編集者ネットワーク「Global Editors Network(GEN)」が主催し、世界各地で実施されているデータジャーナリズム・プロジェクトが一堂に会す、ということで、データジャーナリズムの最新動向を押さえるうえで個人的に注目していました。余談ですが、編集者ネットワークGENにはブログ 世界を変える個人メディア』や『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』の著者、ダン・ギルモア氏も参加されています。


データジャーナリズムアワードの目的はサイトに英文で記載されていますが、抄訳すると以下のようになります。

  • 最も優れた取り組みにスポットを当て、データジャーナリズムのレベル向上に貢献する
  • ジャーナリストを刺激する
  • 編集者やメディアの経営者にデータジャーナリズムの価値を知ってもらう
  • ジャーナリスト、開発者、デザイナーなど、データジャーナリズムに関わる人たちの連携を促進する

審査委員にはNewYorkTimesやトムソン・ロイターの編集者、Googleのエンジニアなど、10名のデータジャーナリズムのスペシャリストが名を連ね、そしてそのトップに立つのがProPublicaのPaul Steiger氏です。

データジャーナリズムアワードには3つのカテゴリー「データ駆動調査報道」「データ可視化/ストーリーテリング」「データ駆動アプリケーション」と、2つのレンジ(対象範囲)「国家・国際部門」「地域部門」を掛け合わせた全6部門が設定され、各部門ごとに受賞プロジェクトが決められます。

  • DATA-DRIVEN INVESTIGATIONS National/international
    データ駆動調査報道の国家・国際部門。 社会問題をあぶり出す、あるいは社会が特定の問題に対する結論を出すために、データを分析・調査して新たな事実を見つけ出した、優れたデータ駆動型の調査報道に贈られる。
  • DATA-DRIVEN INVESTIGATIONS Local/regional
    データ駆動調査報道の地域部門。
  • DATA VISUALISATION AND STORYTELLING National/international
    データ可視化/ストーリーテリングの国家・国際部門。社会が特定の問題に対する結論を出すために、
    データをグラフや地図などの形態で可視化し、それを活用することで読者の理解を深めた、優れたプロジェクトに贈られる。
  • DATA VISUALISATION AND STORYTELLING Local/regional
    データ可視化/ストーリーテリングの地域部門。
  • DATA-DRIVEN APPLICATIONS National/international
    データ駆動アプリケーションの国家・国際部門。公共的に重要なデータを、読者にとって分かり易くかつシンプル、そして再利用を考慮した形式で提供している、優れたプロジェクトに贈られる。 
  • DATA-DRIVEN APPLICATIONS Local/regional
    データ駆動アプリケーションの地域部門。

本筋である「データ駆動調査報道」の他に、データジャーナリズム最大の強みである「データの可視化/ストーリーテリング」や「データ駆動アプリケーション」が設定されているのが特徴的で、データジャーナリズムでは調査力や文章力とは別に、テクノロジーに対するある程度深い理解が求められることがわかります。

また、選考基準を読んでいると、単にデータを可視化しただけの独りよがりのプロジェクトはNGで、「読者にとって分かり易いか」「読者が洞察を得る手助けができたか」など、読者目線も大きなポイントとなっています。



さて、データジャーナリズムアワードは今回が初開催だったにも関わらず、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、メキシコ、フィリピン、ケニヤ、ウガンダなど世界各国の報道機関や、フリーランスのジャーナリストから300を超えるデータジャーナリズム・プロジェクトがエントリーされました(残念ながら日本からのエントリーは無かったようです)。このうち58のプロジェクトが最終選考に残り、今年4月の国際ジャーナリズムフェスティバル期間中に開催された最終プレゼンを経て、各部門の最優秀プロジェクト(6プロジェクト)と3つの佳作プロジェクトを含む計9プロジェクトが、栄えある第一回データジャーナリズムアワードを受賞しました。

受賞プロジェクトの成果物は可視化されているものが多いため、言語の壁があるとは言え、どれも見応えがあります。これらの中で気になったのは米シアトルタイムス(The Seattle Times)が、データを収集・分析・可視化することで特定の医薬品(メタドン:Methadone)による被害を明らかにした「Methadone and the Politics of Pain」。2012年のピューリッツアー賞も受賞したこの調査報道は、最終的には政治を動かしたこともあり、データジャーナリズムの可能性を大いに感じさせてくれました。

また、スイスのPolinetz AGによる、法案の可決・否決状況など政治の動きを可視化する取り組み「Transparent Politics」にも注目したいところ。ジャーナリズムの重要な役割ともなっている「政治監視」の強化にもつながるのではないでしょうか。Googleもアメリカ大統領選の動向を可視化するサービス「Google Politics & Elections」をリリースするなど、この分野でのデータジャーナリズムはまだまだ広がることが予想されます。日本での取り組みも期待したいですね。

なお、ここでは触れなかった7つのプロジェクトを含め、全ての受賞プロジェクトをNAVERまとめにまとめておきましたが、早稲田大学ジャーナリズムコース准教授・田中幹人さんによる一連の関連ツイートが参考になります。


データジャーナリズムアワードの最終プレゼンも行われた国際ジャーナリズムフェスティバルに参加された朝日新聞・平和博さんによる、データジャーナリズムに関する一連の記事も理解を助けてくれると思います。


「データ可視化/ストーリテリング 国家・国際部門」で受賞したガーディアンが、自社のサイトに総評(英語)を掲載しています。


ちなみにガーディアンによるデータジャーナリズムに対する取り組みは非常に進んでおり、一見の価値があります。機会があればまとめてみますね。